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安中市立九十九小学校 見学会

2006年5月12日、群馬県安中市立九十九小学校の新校舎完成による見学会が行われた。平日だった為、生徒が授業を行っている風景やランチルームを利用している様子など、建築だけでなく新校舎での生徒たちの生活風景も見ることが出来た。九十九小学校は1学年1クラス(児童数96名)の小規模校で、校舎は「教室棟」と「多目的棟」がエントランス(昇降口)となる「集いの広場」でつながれている。学校の雰囲気は壁が少なく、開口部の多い木造(+鉄骨)建築で、「木のぬくもり」が感じられる明るく温かな印象をうけた。
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集いの広場

060608_02.jpg 九十九小学校のシンボルと言っても良いと思う、サッカーボールを連想させるドーム状の屋根で覆われた集いの広場は小学校のエントランスとなっており、その空間は外部にいるかのように明るく開放的で気持ちの良い空間であった。下足と上履きの空間がうまく処理され、円形に掘られた段差が、腰掛ける場としてちょうど良い。また大きくとられた開口部からは地形を利用して作られた花壇と既存のサクラの木が見え、これもまた気持ちが良い。
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小学校のエントランスは筆者にとって思い出深い学校空間のひとつである。朝の登校や下校で、異なる学年やクラスの生徒と自然に顔を合わせる場所で、何気ない挨拶やきっかけから友達が出来た思い出がある。しかし、その小学校のエントランスはいわゆる「昇降口」で、暗く汚くいつも砂埃が舞っていて、息を止めて靴を履き替えた記憶もある。靴を履き替えるだけの場ではなく、友達との待ち合わせや、出会いの場としても有効な「集いの広場」は魅力的だ。

設計者の階段空間へのこだわり

非常にローコストな建築の為、規格サイズが住宅用の木材を応用するなど、細部に工夫がなされていた九十九小学校。しかし、そうとは感じさせない「設計者のこだわり」も多く見られた。そのひとつに階段空間がある。1階と2階をつなぐ階段は3箇所あるがそれぞれに特徴がみられる。校舎からサクラの木がある中庭に飛び出した階段空間は集成材片持ち梁の階段で、全面ガラス張りの開放的な階段空間。また中空ポリカで支えられ階段は、正面に広がる校庭を一望できる空間。ランチルームと2階をつなぐ階段はハブマイヤートラスの手摺を用い、軽快なデザインにより空間が広く感じられた。これらは建築に関わる筆者にとっては興味深い空間であった。ただ1点だけ気になったのは、中庭に飛び出した全面ガラス張りの片持ち梁階段において、ガラス面側にある手摺の支柱によって特徴的な片持ち梁の印象が薄れてしまったように感じた。また支柱を無くし側面の柱に手摺を設置することで、背の低い子供の目線からもガラス越しに広がる外の景色が見やすくなったのではないだろうか。

学校建築において、通過動線でしかない階段空間は、魅力や快適性についてそれほど重要視されていないのが現状である。しかし生徒にとっては毎日使う空間であり、教室や廊下など平坦な空間とは異なった体験をする空間でもある。教室や外の景色を眺める場や段差に腰かけて友達とおしゃべりをする場、遊びを創造する場など、生徒達の居場所となる空間のひとつとしてとらえることができるのではないだろうか。
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教室周り

教育棟は、1階に1・2年生の教室と職員室やランチルーム、2階に3~6年生の教室と図書やコンピューターコーナーが配置され、教室周りは明るい南側に設けられたオープンスペースを中心とした空間となっている。教室は6.3m角とスケールが小さく、開口部からは大きな庇とバルコニーの先に広がる中庭の緑が見える、落ち着いた空間となっている。また隣の教室との間には、生徒が考え事や読書をする際に利用する「クワイエットルーム」という小さな空間が設けられ、隣の教室との関係が程よく連続している。オープンスペースには多角形のテーブルやベンチ、ロッカーが置かれている他に、教師コーナーやデンなど、小さな空間が設けられている。どちらかというとゴチャゴチャした感じだが、整然と広々した空間よりも「生活感」や「温かみ」が感じられ、好感がもてた。
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全体の印象としては、木造の空間や床に張られたカーペット、さらに平面的にも高さ的にもスケールを抑えられた空間が、温かみのある「アットホーム」な雰囲気をつくりだしていた。見学をしている我々大人にとっては少し窮屈に感じるところもあるが、椅子や床に座って学んだり遊んだりする子供たちにとってはちょうど良い生活空間のスケールなのであろう。

そんな魅力的な空間とは対称的に、家具については非常に違和感を覚えた。旧校舎で使われていた生徒の学習机や椅子、教師用のデスクなどがそのまま利用されていた。空間は間仕切りを無くし、カーペットを使用するなど学ぶ場所やスタイルを限定しないフレキシブルな空間であるのに対し、従来の学習机によって生徒が黒板と向かい合わせという、従来の学びのスタイルは変わっていない。家具によって生活のスタイルが大きく限定されてしまうという実態から、教室空間の計画と同時に家具デザインの重要性を改めて認識させられた。

魅力的な学校とは

1・2年生の教室の隣に「のびのび教室」という教室があった。ある生徒に声をかけてみた。「この教室って何に使っているの?」。するとニッコリ笑って「ここはねー、僕たちがいつでも本を読んだり勉強したい時に入っていいんだよ~!」と言いながらその教室を出たり入ったりしながら教えてくれた。今回の見学会では魅力的な空間や特徴的な構造、設計者のこだわりなどが随所に見られたが、何よりもそこで生活している生徒達がうれしそうに、また自慢げに自分達の教室を説明している風景を見て、あらためて九十九小学校の魅力を実感した。

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