オープン教室の音響性能
教室で支障なく学習活動を行うためには、隣り合った教室間の遮音性能を確保することは基本的に必要な条件です。しかし、近年増加しているオープンプラン型の教室では空間が連続しているため音がよく伝わってしまうことは避けられず、教室間の遮音性能として必要といわれている規準を満たすことはほぼ不可能という矛盾をかかえています。クラス間の音響的な干渉を低減するためには、運用面での工夫が不可欠ですが、同時に設計者はこの音の問題を十分に認識し、少しでも改善する必要があります。
一口にオープン教室といっても、教室の配置のしかたや仕上げの条件はさまざまですが、伝搬する音を低減するためにはどのような工夫をすればよいのでしょうか。ここでは、教室の建築的条件と音響性能との関係についてみてみましょう。
さまざまな教室配置、仕上げの条件と音響性能との関係を測定した結果として、図1に示す教室配置や仕上げ(吸音の有無)が特徴的なオープン教室で、隣接する教室間の音響伝搬特性を行った結果を図3に示します。これは、教室のほぼ中央に音源を設置し、オープンスペースおよび隣接教室で伝搬してくる音の測定したものです(図2参照)。図3は音源が100デシベルのパワーで音を出したときの受音点での音圧レベル(Lpn)を示したもので、縦軸の値が小さいほど伝わっていく音が小さく、音響性能がよいことを表しています。
隣接教室への伝搬音に着目すると、オープンプラン型のさまざまな配置を比較した場合(図3(a))、天井が吸音仕上げで雁行配置の場合(E-1:○, E-2:+)にもっとも伝搬音のレベルが小さくなっています。また、吸音処理なしでも教室間の間隔をあけた並列配置の場合(D-1:×, D-2:▼, D-3:▽)には、伝搬音は比較的小さくなっています。図3(b)は並列配置型(A~C)の三つの条件を比較したものですが、天井吸音処理なしの場合(C:●)に比べて、吸音処理した場合(A:■、B:▲)には、伝搬音のレベルが比較的小さくなっており、最大で約15デシベルもの差がみられます。参考までに、オープン型と片廊下型とを比較したところ(図3(c))、片廊下型でドアを閉めた場合(J-1:◆)に当然のことながら伝搬音は最も小さくなっており、オープン型の場合は片廊下型で教室のドアを開けた場合(J-2:◇)と同程度になっていることがわかります。このような結果から、教室の配置の工夫(雁行型の配列や教室と教室の間にスペースを挟んだ配列など)や天井の吸音処理によって、教室間の伝搬音が低減することがわかります。
■数値シミュレーションによる検討建築音響の分野では、建物に必要な音響性能が確保されているかを設計時に予測・確認するための音響シミュレーション手法の開発が行われてきています。図4はホールの音響設計などで用いられている波動音響シミュレーション(FDTD法)で教室間の伝搬音を計算した結果です。隣り合う二つの教室とオープンスペースを対象に、左の部屋の中央付近で音(パワーレベル100デシベル)が発せられたときの音圧分布特性(500ヘルツの1オクターブバンド)を表しており、緑の色が濃いほど音圧レベルが低い、つまり伝搬する音が小さいことを示しています。天井を吸音しない場合(左の図,(a))と吸音した場合(右の図,(b))を比較すると、右の図の方が受音室側の音圧が全体に小さくなっています。室内の音圧レベルの平均を比較すると7~8デシベルの差があり、天井の吸音処理がオープン教室の伝搬音の低減に効果があることが確認できます。
図4は音源からパルスを放射したときの累積エネルギー(定常状態の音圧分布に相当)を表したものですが、ここで用いている数値シミュレーションは三次元音場の過渡応答を求めるもので、時間を追って音の伝搬の様子をみることもできます。動画1はこの音の伝搬の様子をアニメーションでみたもので、このように音響現象の可視化技術を用いることによって、教室配置や室内の仕上げの影響を検討することができます。
これまでの検討で、天井を吸音する、教室間にスペース設ける、オープンスペース壁面の一部を吸音するなどの対策が隣の教室への伝搬音を低減させることが確認されています。音響設計というとコンサートホールなどの建物に限定して考えてしまいがちですが、学校の設計の際にも音響設計のプロセスを忘れずに、少しでも使う人の負担が少ない教室を設計したいものです。
Comments
興味深く拝見しました。
技術的な解決と共に、学会誌でも発言されていましたが(ハードの対応にも限界がありますので)運用上の配慮も大切であると思いました。学校の建築的なマニュアルを作成したのですが、項目を増やし音のことについても触れたいと思います。