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学校の音環境計画の基本

教育活動において音声による情報伝達が重要なことはもちろん、学校における重要な環境性能のひとつとして快適な音環境を確保することは非常に重要です。しかし、現状をみると、学校建築の設計の上でも、あるいは実際の教育活動においても、音環境づくりの重要性が忘れられてしまっていることが少なくありません。

このコラムでは、学校施設の音響設計の基本を確認してみましょう。

■ 室内騒音

教室のなかでのコミュニケーションを支障なく行うためには、適切な静けさを確保することが最も基本的な条件として重要です。一般に、騒音レベルの推奨値としては、一般教室で40デシベル以下、特に静けさが必要な部屋(音楽室・保健室・スタジオ等)で35デシベル以下の条件が必要とされています。これらの条件を満たすためには、道路交通騒音などの外部騒音の遮断、隣接諸室からの音の伝搬の防止が必須となります。また、最近では空調設備やコンピュータ関連機器など内部騒音源も増えてきており、その対策も考える必要があります。

■ 遮音性能

実際に教室が使用される状態で上記の室内騒音の条件を保つためには、外周壁の遮音性能、教室間の界壁の遮音性能、および床衝撃音遮断性能の確保が必要になります。室間の必要遮音性能は、隣接する室の組み合わせ、すなわち音源側で想定される発生音の大きさと受音側の室内騒音の要求性能との組み合わせで考えます。

教育活動において音は必然的に発生するわけですが、教室ではどのくらいの音が出ているのでしょうか。図1は、一斉授業、発表、調べ学習、作業、問題演習など、さまざまな活動が行われているときの騒音レベル(LAeq,30s)を測定したものです。全体としては45~85デシベルという広い分布を示しており、学級単位の通常授業では60~70デシベル、テストなど静寂な授業で45~60デシベル、音楽の授業や、学年全体での活発な活動、クラス全員での発声を伴うような授業では75~85デシベルになっていることがわかります。活動によっては30~40デシベルもの差があるため、隣り合った教室で対照的な授業が行われる場合には特に、遮音性能が確保されていないと授業に支障をきたすことになります。一般的に、隣接した教室間で音響的に支障なく同時に活動が行えるためにはD-40以上の遮音性能が必要とされています。

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図1 活動内容別にみた教室内の発生音レベル

室内の発生音は、音楽室や体育館などでは必然的に大きくなり、95 dB以上にもなります。最近の設計事例では音楽室や工作室など大きな音が発生する特別教室や体育館を普通教室の近くに配置している例、木造や鉄骨造など軽量の床構造を採用している例も多くみられますが、このような場合には特に遮音・床衝撃音防止の点できわめて不利であることを十分に考慮しなければなりません。

■ 室内音響(残響の調整)

明瞭に音声を伝達するためには、室内騒音の条件を満足すると同時に響き(残響)の制御が必要 です。残響が過多になると音声伝達の明瞭度を低下させるだけでなく、室内における喧騒感が高まります。したがって、各室には用途に応じた適切な吸音処理が必要となります。音楽室や講堂など特に音響性能が重要な部屋については、室形状の検討、フラッターエコー等の音響障害の防止、最適残響時間の設定などホールの音響設計に順じた設計が必要ですが、一般的な教室や実験・工作室などについては、天井を適切に吸音することによって室全体で0.2程度の平均吸音率を確保すれば、ひとまず良好な室内音響条件が確保できます。

体育館は学校の中でも最も容積が大きい空間の一つですが、用途から往々にして吸音処理まで考えられていない場合が多く、集会などで使われる場合には、過度の残響が明瞭な音声伝達の妨げになります。体育の授業、競技なども、残響過多のためにきわめて喧騒感が高い環境で行われる例も多くみられます。またその音が近接した教室などに影響を及ぼしていることもあり、体育館など大きな音を発生する部屋については配置計画はもちろんのこと、吸音処理、遮音にも十分な配慮が必要です。

最近は、ランチルームやラウンジなどの名称で教室よりやや大きめの多目的室が設置される例も多くみられますが、室容積を大きくすることに伴って残響が長くなりやすい上に、このような部屋では種々の音が発生して喧騒感が高まりやすいので吸音処理が特に重要です。アトリウムなどの緩衝空間も、音の問題を引き起こしやすい場所です。容積が大きいだけに、内部の吸音処理が不十分な場合には、音の伝搬経路となったり、喧騒感が高く落ち着かない空間になってしまうため、注意が必要です。

最近では、教室のオープン化をはじめ新しい教育理念や学校の運営形態が提案され、それを実現するために建築計画・デザインが多様化しつつありますが、中には建築音響的な配慮の欠如によって深刻な音の問題が引き起こされている例も少なくはありません。学校の音環境は教育活動の成否や子ども達の心理に関わる重要な要素です。音の問題を未然に防ぎ、快適な音環境を実現するためには、学校建築の設計の際にも音響設計のプロセスを大切にしたいものです。

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