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「未来の学び」をデザインする

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学びは学校、教室の中だけで起こるものではなく、人間が日常の仕事や生活の場で常に行っている、生きる上での基本的な営みである。こうした立場から「学び」をデザインする方法を論じたのが本書である。本書は従来の学習観を問い直し、「空間」「活動」「共同体」の3つのキーワードから未来の学び像を提案する。これはつまり、教室(空間)で、個人個人が(共同体としてではなく)、知識を獲得する(活動という能動的な行為ではなく、習うという受動的行為として)という学習観を見直すことである。ここでは「はこだて未来大学」の建築とそこでの教育活動を事例に、新しい学びの形が示されている。
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この鍵となるのは「アトリエ」モデルである。ひとつの空間で、実際の制作活動が行われ、学びの共同体ができているようなアトリエである。 伝統的な学習空間であった教室に代わるのは、様々な活動や作業、プレゼンテーションが行われ、それらを学び手が互いに見て、刺激を受け合うアトリエ的環境である。教室と違い、アトリエでは学習者の制作(学習)の過程が公開されている。学習の過程が頭の中にあるのではなく、外部に表れて人びとのインタラクションを誘発するのだ。

こうした環境から共同体が生まれる。教師と生徒が一対一でバラバラにつながるのではなく、学習者どうしも問題意識や発想、解決に向けた方法を共有しながら切磋琢磨するような、学習の共同体である。

このような「アトリエ」的な学びは、なにも美術や建築の世界だけで成立するわけではない。本書では、実験装置の作成のようなものづくり活動やワークショップの例をあげて、共同体的学びの様子が描写されている。ここでは学習は個人の知識獲得ではなく、目的を共にする集団の実践的活動の形をとる。そして、学ぶ側が時として教える側になったり、その逆が起きたりする。

理論的な骨組みになっているのは、「正統的周辺参加」という、徒弟制における学びをモデルにして、学習を共同体への参加と捉える理論である。この理論では、学習を無味乾燥な知識の断片の獲得ではなく、学び手が一定の役割を担いながら共同体に加わっていくプロセスと捉えている。

では、学びをデザインするとはどういうことか。本書ではデザインを工学と職人技の中間に位置づけている。厳密に管理・制御されたものではなく、また芸術家の天才に依存するのでもない、ある程度は構造化されており、個々人の発達の機会が組み込まれている状況をつくる−デザインする−具体的ヒントがあげられている。

小学校の壁のない教室やオープンスペースは、伝統的な学習にかわる、未来の学びのための空間として計画された。また、総合学習はもともと活動や体験を通じて学ぶことを目的とし、共同体的学びの可能性を秘めている。しかし、そうした空間や学習活動を効果的に結び合わせる実践的理論はこれまであまりなかった。空間・活動・共同体を不可分なものと考えて、それらを融合させて学びの状況をつくることを目指す本書には、学校教育の現場にも有効なヒントが多いのではないだろうか。

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